〈ひととき〉(ウェッジ発行)2016年4月号、西山克先生の『中世不思議ばなし27』 の挿絵。
歴史資料から読み解く西山先生の不思議話は興味深いものです。
今号は【水辺のアイドル 中世前期の遊女】
従四位下 橘善根という男の妻が難産続きを苦に、堕胎を試みて毒薬を服すも何事もなく生まれた性空(しょうくう)という人が、生身の普賢菩薩に逢いたいと考えたところから話が始まります。お産は大変な事だから、母子共々健康なんてのは、当たり前の事ではないのですよねぇ。医療が今のようでなかった時代に、家族からすると細胞分裂の初期段階でバイバイしちゃおうというのもわからなくもないですね。
さて、1210年代の『古事談』巻第3-95によると、性空が「神埼の遊女の長者を見るべし」という夢告を得て、長者を訪問し、遊宴乱舞の客に交じった。このとき、性空が目を閉じると、長者が普賢菩薩の姿になり、開けると長者に戻り、感涙して帰ろうとすると長者が追ってきて口止めして急に消え去ったと。
西山先生の推察によると、『法然上人絵伝』(1307年制作)には実際に貴族達をそそる遊女が描かれており、それを普賢菩薩と結びつけるには『普賢十羅刹女像』から読み解けるぞ!というのです。十人の刹女(鬼女)が菩薩の従者であり、その姿が、絵伝のに登場する遊女の姿に酷似している。だから、“普賢菩薩=遊女の長者”となったのではないか・・と。
播磨の書写山(兵庫県姫路市)の草庵に住んだ書写上人と呼ばれた人がこの性空。胸に阿弥陀如来の刺青をし、俗世間を離れて『法華経』の読謡三昧に生きた人だそうです。
挿絵で苦労したのは、実際の奈良国立博物館所蔵の「普賢十羅刹女像」をイラストに描き換える作業でした。色塗りも含め、普段の三倍の時間がかかりましたが、出来映えには、さほどの違いを感じないようで、残念至極でございまするぅ〜。トホホ。

